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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)1337号 判決 1989年7月10日

控訴人(原告) 小林今朝丸

右訴訟代理人弁護士 城田冨雄

被控訴人(被告) 静清信用金庫

右代表者代表理事 村上安男

右訴訟代理人弁護士 奥野兼宏

同 河村正史

同 小倉博

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴の趣旨

1.原判決を取り消す。

2.債権者を被控訴人、債務者兼所有者を控訴人とする静岡地方裁判所昭和六一年(ケ)第二二七号不動産競売開始決定における原判決添付同決定書の別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載2の(1)ないし(14)の各債権(後記更正決定による更正前又は更正後のもの)が、同目録記載1の担保権の被担保債権ではないことを確認する。

3.訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二、控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張及び証拠関係

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、原判決(以下、同じ)二丁表八行目の「以下」を「ただし、後記更正決定前のもの、以下、特にことわらない限り、右更正決定前の右不動産競売開始決定を」と改め、一一行目の「担保権」の前に「被控訴人が有する」を加え、同行目から末行にかけての「前記第一、一、1記載の根抵当権、」を削る。

二、二丁裏一行目の「信用金庫取引」の次に「による債権」を加え、同一一行目と末行との間に改行して「4 なお、静岡地方裁判所は、昭和六三年六月二〇日、本件開始決定につき本判決添付別紙更正決定書記載の更正決定(以下「本件更正決定」という。)をしたが、本件更正決定は、書損その他これに類する明白な誤謬にあたらず、民訴法一九四条の要件を欠く無効な決定である。」を加える。

三、二丁裏末行の「4」を「5」と、同行目から三丁表一行目にかけての「昭和五七年二月一八日、」を「昭和五四年三月三〇日、」とそれぞれ改め、三丁表三行目の「締結し」の次に「、昭和五七年二月一八日には、従来、期間及び極度額の定めがなかったその契約内容を、将来負担する保証債務について期間を昭和六〇年一月三一日までの取引により発生した債務と、極度額を六五〇〇万円及びこれに附帯する利息、損害金等と、それぞれ変更する保証変更契約を締結し」を加え、五行目の「仮に、」の次に「本件更正決定が有効で、これにより更正された」を加え、七行目の「ものである」を「ことになる」と、一〇行目の「5」を「6」とそれぞれ改める。

四、三丁裏一行目冒頭から三行目末尾までを次のとおり改める。

「1.請求原因1、2の各事実は認める。

2.同3の事実中、本件更正決定前の本件開始決定における被担保債権及び請求債権の表示が不正確であったことは認めるが、その主張は争う。

3.同4の事実中、静岡地方裁判所が、昭和六三年六月二〇日、本件更正決定をしたことは認めるが、その主張は争う。本件更正決定は昭和六三年六月二三日控訴人に送達されたが、控訴人は法定の期間内に適法な不服の申立をしなかった。したがって、本件訴訟でその当否を争うことは許されない。

4.同5の事実中、前段は認めるが、後段は争う。

5.同6の事実は認める。」

五、三丁裏六行目の「取引とは」を「取引による債権とは」と改める。

六、五丁表末行の「明らかであり」から同丁裏一行目の「そのような債権」までを「明らかであるところ、保証契約は、単に債務のみを負担するだけで、得るものはなにもないのであるから、右条項にいう「取引」に該当せず、また、継続的に発生、消滅するものではないから、本件各保証債権は、信用金庫取引によって生ずる債権」と改める。

七、五丁裏二行目の「被告」から八行目の「そうでないとしても、」まで及び六丁表六行目の「、したがって本件各債権」をいずれも削る。

八、六丁裏一行目の「記録」の前に「本件原、当審」を加える。

理由

一、控訴人と被控訴人との間で、昭和五四年三月三〇日、ナニワ理建と被控訴人との間の信用金庫取引により生じた債務につきナニワ理建と連帯して保証する旨の契約が締結され、昭和五七年二月一八日には、同日付の保証変更契約により右保証契約が控訴人主張のとおりの内容に変更されたこと、これとは別に、控訴人は、昭和五四年七月六日、被控訴人との間で本件信用金庫取引契約を締結し、また、昭和五五年三月二四日、被控訴人のために本件開始決定中の物件目録記載の不動産につき、被担保債権の範囲を(一)信用金庫取引による債権、(二)手形債権・小切手債権とし、極度額を一〇〇〇万円とする根抵当権を設定し、同月二八日付でその旨の根抵当権設定登記が経由されたこと、静岡地方裁判所は、被控訴人の申立に基づき、昭和六一年八月二九日、本件開始決定をし、その後昭和六三年六月二〇日、本件更正決定をしたこと、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、控訴人は、本件更正決定は、書損等に類する明白な誤謬にあたらず、無効であると主張するが、成立に争いのない乙第五号証、第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件更正決定はすでに確定していることが明らかであるから、右主張は理由がない。

三、そこで、本件根抵当権の被担保債権に本件各保証債権が含まれるかについて判断する。

1.本件根抵当権の被担保債権として信用金庫取引による債権が掲げられていることは前示のとおりであるところ、控訴人と被控訴人との間の本件信用金庫取引契約において、その適用範囲が「手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、債務保証その他一切の取引に関して生じた債務の履行」と定められていることは、当事者間に争いがない。

2.控訴人は、根抵当権の被担保債権の生じる原因として掲げられた信用金庫取引における「取引」とは、根抵当権者である信用金庫とその取引先との間の直接の与信取引を意味するところ、保証契約は、保証人である取引先が単に債務を負担するだけで得るものは何もないのだから右条項にいう取引とはいえない旨主張するが、保証契約も信用金庫と取引先との間の信用金庫取引契約が継続する過程で直接締結される契約であるうえ、保証契約は、保証人と主たる債務者との間での何らかの利害関係(親子会社、元請下請の関係等)が存在する中で、信用金庫が主たる債務者に対して行う融資に関してなされる場合が多く、このことは、直接には信用金庫の主たる債務者に対する与信行為ではあるが、同時にそれは保証人である取引先に対する与信に準ずる行為とみて差し支えないと認められる。もっとも、これを具体的な事案でみた場合には、保証人と主たる債務者との間で右のような特別な利害関係がなく、純粋に個人的動機で保証がなされることもありえないではないが、信用金庫取引の中に保証が含まれるか否かを考えるときには、客観的かつ類型的に判断することが取引の安全に資することになるのであり、右の観点から判断すれば、保証契約も前記「取引」の内に含まれるものと解するのが相当である。

そして、成立に争いのない乙第四号証の一ないし五、第七号証の一ないし一二によれば、現行の金融取引実務上、銀行や信用金庫等の金融機関が、第三者に対する債権を担保するために取引先に保証を求めることは、通常行われており、その場合、右保証は、銀行取引約定書や信用金庫取引約定書に例示された「手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、債務保証」等の与信取引に準ずるものとして、「その他一切の取引」に含まれるものと一般に解釈され取り扱われ、すでに当該取引界における商慣習として定着していることが認められる(成立に争いのない甲第六号証も右認定の妨げとはならない。)。そうすると、根抵当権設定契約においてその被担保債権の範囲に含まれるものと明示されている「信用金庫取引による債権」のうちに右商慣習からみて保証債権が含まれると解すべきである。そして、このことは、本件におけるように信用金庫と保証契約を締結した後にこの保証人が当該信用金庫と信用金庫取引を開始した場合においても、少なくとも右信用金庫取引を開始した後に生じた個々の具体的保証債権については同様に解すべきである。したがって、控訴人が被控訴人との間に信用金庫取引を開始した後に生じたことが前示事実から明らかな本件各保証債権は、本件根抵当権設定契約においてその被担保債権の範囲に含まれるものと明示されている「信用金庫取引による債権」のうちに含まれると解するを相当とする。

なお、このように解した場合、予測しえない額の保証債務につき根抵当権が実行されることにより、根抵当権設定者やその根抵当権の後順位権利者の権利を害することになるのではないかとの疑念が生じないではないが、その点は、被担保債権の極度額により利益保護が図られているものと解されるから、右のように解釈しても不都合は生じない。

控訴人は、また、本件の解釈にあたっては、当事者の意思をも重視すべきであると主張するが、右のような商慣習がある場合には、当事者がこれを排除する旨の特約をした場合は格別、そうでなければこれによる意思を有するものと推定するのを相当とするところ、成立に争いのない乙第六号証その他本件全証拠によっても、控訴人と被控訴人との間に本件各保証債権が本件信用金庫取引による債権に含まれない旨の特約又は本件根抵当権の被担保債権から本件各保証債権を除外する旨の特約があったことは認められず、かえって、前記事実及び成立に争いのない乙第二号証、第一〇号証(原本の存在も争いがない。)によれば、控訴人は、前示昭和五七年二月一八日の保証変更契約に関する被控訴人からの問合わせに対し、同年三月一日付でナニワ理建に関する連帯保証(あるいは担保提供)については、右保証変更契約の内容どおりに了承している旨の回答をしていることが認められ、控訴人として被控訴人との信用金庫取引の継続中にナニワ理建が被控訴人に対し負担している債務につき保証債務を履行すべき事態が生じうることを十分に認識する機会があったことは明らかであるから、控訴人の右主張は前示結論を左右するに足りない。

3. 以上の説示のとおり、本件各保証債権は、本件根抵当権の被担保債権になるものというべきである。したがって、控訴人の本件請求は理由がない。

四、よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 前島勝三 笹村將文)

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